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7月の文谷先生

 軍事研究8月号の記事、文谷数重著「護衛艦や固定翼機より優る水上戦力強化策 海自『艦載ヘリ』重点増強案」の感想です。  総論に異論はありませんが、各論は??だらけです。艦載ヘリを増強するのが戦力の有効な増強策だというのには同意しますし、それが相対的にはコストが余りかからないというのも概ね同意します。  ただ、ヘリ1機または2機が汎用護衛艦と等価(能力、戦力)というのは疑問です。もちろん、現在の海軍において、駆逐艦、フリゲートクラスにおいて艦載ヘリの有無は大きな違いがあります。ヘリ搭載能力がないこの手の水上艦艇の価値が低いというのもその通りでしょう。ただ、とはいえ、ヘリと水上艦艇では役割が違います。護衛艦を減らしてその分ヘリを増やせば戦力としては等価、というのは余りに乱暴でしょう。少なくともSH-60Kには対空能力はありません。悪天候では飛べません。航続距離(時間)は限られるので、常時1機飛ばすには3機から4機は必要です。夜間飛べない訳ではありませんが、リスクはあるでしょう。仮に汎用護衛艦とヘリ1機の能力が同じだと仮定しても、3機から4機のヘリは最低必要です。当然ながらそのヘリを飛ばすプラットフォームも必要です。  現在の海自の艦載ヘリの合計数が護衛艦のヘリ搭載能力よりも少ないから、少なくとも同じだけのヘリを増強すべし、という主張でそれそのものは理解出来ます。が、当然ながら、全ての護衛艦が同時に出撃(稼働)出来る訳ではありません。素人じゃないんですから、当然そのことは著者は知っているはずです。理解していないとしたら、このような原稿を書く資格はないでしょう(知っていてやるのと知らないのとは大違い)。4護衛隊群存在するのは、常時2護衛隊群を活動させるためです。戦時には無理すれば、3護衛隊群までは活動出来るかもしれません。ですから、数字上の搭載能力と実際の搭載能力は違います。格納庫が99機分あるのにヘリが85機しかなくてもとりあえず困りません。活動する護衛艦の搭載能力は精々50機程度ですから。なので、現状のヘリ保有数でも実際には充足出来ます。もちろん、稼働率や消耗を考えれば、余裕を持っているのにこしたことはありませんから、可能なら搭載能力よろ多いヘリを保有するのが望ましいでしょう。ただ、今回の記事ではあたかも全ての護衛艦が同時に活動出来るように書かれているのは問題です(ミスリードするのが目的だと思いますが)。ヘリの増強は著者の言うように戦力の増強ではなく、継戦能力の向上でしょう。  作戦行動可能なヘリを増やすためにはそのプラットフォームを増やす必要があります。固定翼機を減らしてヘリを増やすのはともかく、護衛艦を減らせばプラットフォームも減ります。2機目を搭載出来たとしても2機同時に使用して能力2倍とはならないでしょう。  艦載ヘリを海自の主力にすべしということであれば(今回の主張は必ずしもそういう訳ではないようですが)、今後建造する護衛艦、少なくとも汎用護衛艦(DD)はヘリのプラットフォームに特化してなるべく安価にして展開可能なヘリを増やす必要があるでしょう。速度の遅いLCSのようイメージの艦も考えられるでしょう。固定武装は最低限度で、飛行甲板と格納庫をなるべく広くして、排水量は抑える、速度は精々25kt程度で十分。ただし、航続距離は長め、という感じでしょうか。また、いせ型はいずも型は高価ですから(いずもは見た目ほど高くはないようですけれど)、例えばフェリーをベースにしたヘリを4、5機搭載出来る安価な簡易DDHを増やすということも考えられます。  著者の言う特設ヘリ護衛艦も戦時には不可能ではないでしょうが、今の日本でどれだけそういう体制がとれるやら?徴用する法律もありませんし、戦時にそれらを自衛官だけで運行させるような体制もありません。そもそも、そんな準備をする時間があるのかという疑問もあります(フォークランドでは相応の時間がありましたが)。  固定翼機との比較もどちらも長所短所があり、適材適所で使うべきものであって、全てをヘリで置き換えられるものではないでしょう。ヘリの航続距離、時間は短いですから、近くに何らかのプラットフォームが必要です。それが洋上であればヘリ搭載艦が必要です。一方、固定翼機は航続距離、時間が長いので離れた陸上基地から運用出来ます。進出距離が長ければあるエリアをカバーするための機数は増えます。しかし、ヘリよりも柔軟性に富むのは間違いないでしょう。  陸上基地からヘリを運用したとするとそれがカバーできる範囲は限られます。空中給油という方法がなくもないですが、搭乗員の疲労を考えると現実的ではないでしょう。海峡や瀬戸内海のような場所、重要な港湾であればヘリは有用ですが、本土から離れた場所では使えません(届きません)。ディッピングソナーを除けば、ヘリに出来て固定翼哨戒機に出来ないことはありません。現状、ヘリでは対艦ミサイルは運用出来ません(小型のミサイルを対艦用に搭載することは技術的には可能ですが)。制空権が無ければ活動出来ないのはヘリも固定翼機も同じではありますが、固定翼哨戒機なら敵の防空網の外から対艦ミサイルを撃ち込むことは出来ますが、ヘリにはそのような大型のミサイルは使えません。対潜戦の際にもヘリは多くて2発の対潜魚雷しか搭載出来ませんから、仕留める前に撃ち尽くして交代または帰還して魚雷を搭載しなおしてくる必要があります。もちろん、固定翼哨戒機も無尽蔵に搭載出来る訳ではありませんが、ヘリよりは多いです。  お金(予算)が無いとして、固定翼哨戒機と哨戒ヘリのどちらを取るかといえば、それはヘリでしょう。ただ、両者は決して等価でどちらかがあれば良いというものではありません。    それからSH-60Kが高価ならより安価なヘリと組み合わせれば良いというのはその通りでしょうが、今更OH-6なんて持ち出すのはいかがなものでしょうか?それにOH-6は小型過ぎるし、搭載力が少なすぎる上に古いですから(著者は古い兵器が好きみたいですが)、やるならTH-135を採用しているのですから、EC135系列でしょうね。開発費は当然かかりますから。DDHにある程度汎用ヘリとして搭載するのならまだわかりますが、今からわざわざ艦載型を開発するのなら、SH-60系列を使う方が整備、教育なども考えて良いのではないかと思います。何百機も装備するのならわかりますが、著者の主張通りにしても精々合計100機程度(増やす数は数十機)ですから。  汎用ヘリを搭載すれば・・・というのなら、それこそ統合運用で陸自のヘリを搭載すれば良いでしょう。もはや、陸だ、海だ、空だとばらばらにやっていく時代ではありませんから(だから、陸自の地対艦誘導弾の批判をするなら、発射装置うんうんよりもリンクされてないことでしょう)。。  護衛艦や固定翼哨戒機の増勢には設備が必要うんぬんは、それは間違っていないとは思いますが、それを批判するのなら費用をある程度見積もってやるべきでしょう。既存の格納庫は古いのも多いですから、建て直すついでにP-1対応にするのなら、純粋にP-1のためだけに費用がかさむとも言えません。それにそれらの設備に費やす金額が合計でヘリ1機分程度なら、許容範囲内でしょう。護衛艦1隻分なら高すぎますが。費用の話はも少し定量的にすべきだと思います。  まあ、ヘリの保有数の話は、事実上のヘリ空母が就役しつつあるのにそれに見合うだけの数のヘリが整備されていないのは確かに問題でしょう。この問題は対大蔵省・・・じゃない財務省という面もあるのでしょうけれど、必要性を述べてDDHの建造と合わせて、増勢すべきだったでしょうね。他を少し削ってもう少しヘリを増やすべき、というのなら同意出来ます。ただ、ヘリさえ増やせばOK!と言われると同意できません。

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