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今月の文谷数重先生

 軍事研究7月号の文谷数重氏の記事「過剰性能と隠れた高コスト負担を内包 重量面で不利/破壊力の不足/汎用性に劣る 超音速対艦ミサイルのデメリット」の感想です。
 段々わかってきましたが、著者がやりたいのは自衛隊の新兵器開発の批判なんですね。いやあ、私がにぶくてなかなか気が付きませんでした。という訳で今回はXASM-3です。超音速対艦ミサイルは亜音速対艦ミサイルに劣るということが延々述べられています。個々の項目それ自体は妥当でしょう。
 じゃあ、超音速対艦ミサイルは要らないのかというとそうでもないでしょう。状況によっては必要性はあります。改めて、超音速対艦ミサイルと亜音速対艦ミサイルを比較してみます。一口に「亜音速対艦ミサイル」といっても色々あるのですが、今回はあえて一般論で行きます。
 違いはなにか?著者は色々述べていますが、要するに「ミサイル全体に占めるエンジンの割合」が違うということでしょう。超音速はエンジンが必然的に大きくなり、亜音速は小さくなります。超音速ミサイルの方がミサイル自身強度が高くないといけないとか高音に耐えられないといけないとかいうのもあると思いますが、エンジンの差と比べればそれほど差は大きくないでしょう。同じ射程距離なら当然超音速の方が燃料も多く必要になります。
 なので、仮に同じサイズだったとしたら、亜音速の方が射程は長く、弾頭も大きく出来ます。同じ射程だったら、亜音速の方が小型軽量に出来るし、弾頭も大きく出来ます。全体的に見れば亜音速の方が低コストでしょう。なので概して亜音速対艦ミサイルは小型軽量で、小型艦艇にも搭載可能ですし、多数を搭載出来ます。
 しかし、コストや大きさ・重さを忘れると絶対的性能は超音速ミサイルが上でしょう。規模を大きくすれば現在の最良の亜音速対艦ミサイルと同等の射程、弾頭重量のものを作ることは可能です。発射してから目標に到達するまでの時間は短いですから、撃墜されにくいのは明らかです。亜音速ミサイルは発見出来れば戦闘機でも撃墜出来ますが、これが超音速ミサイルとなると簡単にはいきません。CIWSの類で撃墜するのは更に困難になります。有効射程内にとどまる時間が短いですし、ある程度命中させてもそのまま突っ込んでくる可能性も高くなります。
 大運動エネルギーであっても船体に吸収させられないから意味がないとか信管が作動しないと突き抜けるとか批判していますが、それは目標が小型艦艇や民間船の場合でしょう。相手が防御力の高い大型軍艦であれば話は違います。亜音速ミサイルでも徹甲型はあると言っていますが、当然ながらそれは弾頭に占める炸薬の割合は小さくなるでしょうね。ミサイルの大きさを押さえれば射程も短くなります。実際著者が例にあげてるコルモランの射程は数十kmにすぎません。弾頭は165と220kgの二種類あるようですが、炸薬はもっと少ないでしょうね。もっとも徹甲弾は炸薬が小さいから駄目とは言えませんが(戦艦の主砲の炸薬はミサイルと比べるとほんのわずかだったが破壊力は低いということはない)。だから超音速ミサイルなくてもある程度の装甲を有する軍艦は撃沈出来るというのは間違いではないですが、超音速ミサイル不要の理由はならないでしょう。少なくとも著者は炸薬が減ることを超音速ミサイルの欠点の一つにあげていますが、徹甲弾型は更に減ります(繰り返しですが、私はだから駄目とは言いませんが)。
 旧西側が超音速ミサイルを開発しなかったのは、その必要性がこれまでなかったからででしょう。それは著者の言う通りです。逆に旧ソ連が複数の超音速ミサイルを開発したのは、その必要性があったからです。どういう必要性?説明するまでもないでしょう、米空母です。相対的に防空能力が高い米機動部隊を攻撃して空母を撃沈するためには大型の超音速ミサイルが必要です。だから、ソ連は各種超音速ミサイルを開発したのでしょう。
 著者はソ連は超音速対艦ミサイルでは勝てなかったと主張していますが、ソ連が亜音速対艦ミサイルを使えば勝てた訳でもないでしょう。超音速対艦ミサイルですら勝てなかったであろう、が正しいと思います。それは結果的にそうだったとの判定(本当にそうかはとりあえず別にして)であり、当時、可能性がある方を選ぶのは当然で、それは不利な点があるのを承知の上で超音速を選んだと思います。
 酸素魚雷と同じだ・・・というのは、結果的にはそういうことになるかもしれません。ただ、酸素魚雷じゃなく空気魚雷でもまったく同じだったかは別の話です。うたわれているほどの差は結局無かったとは思いますが、わずかな差が勝負を分けることもあります。酸素魚雷の問題は本来意図していた遠距離隠密雷撃が命中率が低すぎたことにありますが、通常の魚雷よりも高速だったという点はやはり長所だと思います。うん、そういう意味では確かにミサイルに置き換えれば、空気魚雷=亜音速対艦ミサイル、酸素魚雷=超音速対艦ミサイルということが出来るかもしれません。無駄だという意味ではなくて。

 では、XASM-3は?もちろん、この目標は明確に述べられることはなくても、中国海軍の空母なのは明らかです。現状の中国海軍の防空能力なら現用の亜音速ミサイルでも十分でしょう。しかし、今後はどんどん能力を向上させてくることが考えらえます。その時に備えて、超音速対艦ミサイルを開発し、装備しておくのは当然行うべき「備」でしょう。だって、現状のパッシブソナーでは探知できないくらい潜水艦の静寂性を向上させると推定されている中国海軍ですよ(これを主張したのはこの著者)。近い将来、現用の亜音速対艦ミサイルでは突破出来ない防空能力を持つようになると考えるのは当然でしょう。(^O^)何故、その時になっても現用の亜音速対艦ミサイルで十分と言えるのでしょうね。
 それにXASM-3が実用化されても、既存の亜音速対艦ミサイルと全て置き換えられる訳ではありません。今だってASM-1とASM-2は併用されているのですから。必要な場面に応じたミサイルを用いれば良いだけです。何故、開発が無駄なのか、この点については著者の主張には説得力がありません。XASM-3はASM-1/2の1.5倍程度の重量です。弾頭は小さくなっているかもしれませんが、半分ではないでしょう。ならば、対空母兵器としては意義はあります。ステルス化は考慮されています。対地攻撃能力は技術的な問題以外に問題がありそうです(それを自衛隊が装備して良いのか議論)、シースキミングの超々低空化や二次元機動はXASM-3でどれだけ出来る出来ないがまだ不明でしょう。

http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/21/jizen/sankou/12.pdf
 これを見る限り当然なら、高空からそのまま目標へ突っ込むのでなく、高空で発射して敵対空ミサイルの射程外から降下して低空で突っ込む、または最初から低空で発射してそのまま低空で突っ込むとしています。もしくは、発射母機の被発見を防ぐために低空で発射し、一度上昇し、再び降下するモードもあるようです。
 確かにコストは高くなるでしょうが、亜音速対艦ミサイルと併用するのなら、必要な時には求められる性能を発揮出来そうに思えます。もちろん、想定通りに「出来たら」ですが。

 総論賛成各論反対という言い方がありますが、この著者の主張は各論賛成総論反対です、私にとっては。

 まあ、XASM-3の開発が始まった段階では中国海軍の空母は就役しておらず、著者が言うように最初から本当に超音速対艦ミサイルが最適と考えて開発を始めたかどうかは怪しい部分はあります。ありますが、現状では、必要でしょう。

 亜音速と超音速の折衷型もあるようですね。途中まで亜音速、最後の超音速に加速して目標へ突入と。艦対空ミサイルが長射程化しているので、途中で撃墜されるリスクは亜音速と同じですが、最初から低空飛行出来るメリットはありそうです。最初から超音速でシースキミングが理想ですが、射程は短くなるでしょう。なら対空ミサイルの射程外までは亜音速で巡航して射程を伸ばすというのも手でしょう。相手側にAWACSの類の支援が無ければ、探知されにくくなりますから、これが正解かもしれません。ただ、エンジンを二種類搭載する必要がありそうなので、亜音速型よりは複雑で大きく重くはなりそうです。ASMはともかく、SSMだとこの方式の方が良いかもしれません。

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コメント

読んでる人が楽しくなるような記事書けないの?

投稿: | 2015年7月 4日 (土) 21時36分

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