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外務省に告ぐ

 新潮文庫、佐藤優著、「外務省に告ぐ」の感想です。いつもの調子で安心して読める本です。雑誌の連載をまとめているせいか、過去の著作からの引用がいつもよりも(元々多めだと思う)目立ちましたが。
 帯に「劣化する外務官僚に怒りと愛の処方箋!」と書かれている通りの内容です。本当に劣化(能力の低下)しているのか、それとも元々出来るる人は少数だけだったのかは、部外者の私にはわかりませんが、書かれているのが正しければ、劣化しているといわざるを得ません。
 特に問題と思われたのをいくつか書きます。モスクワの空港で爆弾テロあり、その後離陸した航空機で日本に帰国したキャリアの外交官が「地下鉄の連続テロもあり、またか、という印象。驚きはしなかった」と朝日新聞の取材に外務省職員として実名で答えたというものです。正確な情報をもっていないのならコメントしない、するにしても、哀悼の意を表するというようなコメントをすべきという指摘はまさにその通りでしょう。モスクワ大使館勤務の人間が他人ごとのようにいったり、ロシアでテロは当たり前というような発言をするというセンスの無さに驚きます。
 もう一つは貧弱な語学力。外交官と聞けば、外国語に堪能、と普通は思います。もちろん、世界には多くの言語があるので、すべての言語に通じることはできませんが。しかし、ロシアスクールの人間がまともにロシア語を話せない、とは部外者は思わないでしょう。しかし、現実はそうでない人が少なくないと著者は厳しく指摘します。ただ、それは「劣化」という言葉から連想するように昔は出来ていたが、最近は駄目という訳でもないようです。例えば、陸軍幼年学校からロシア語を学んでいてロシア専門家とされるある人物(だから、最近の人ではない)が実は日常会話すら不自由して、著者が通訳したという話が出てきます。この通訳したというのが、なんとエストニアのホテルでの売春婦との会話だというのが更にあきれます。この人物は専門のはずのロシア語はその程度ですが、英語は意思疎通には支障はないそうです。しかし、政府代表としてラトビアの外務大臣との会談で、何度も「リトアニア」と間違えていったそうです。最後に先方がうちが「ラトビア」ですといわれてしまったとか。
 また、あるロシアの総領事(ロシアスクールのキャリア)があるレセプションでロシア語でスピーチしたところ、横にいたロシア人が要旨だけでいいからロシア語に訳してくれないかと著者に言ってきたそうです。ロシア語を話しているつもりですよというと、そういえば、いくつかわかる単語があると言われたとか。この話は過去の著作にも出ています。ノンキャリでもロシア語の専門家が交渉していて意味がわからないから通訳してくれといわれたことも何度もあるそうです。
 でも、それらはある意味まだましです。一番ひどいと思ったのは、プーチン首相が来日した際に小泉元首相と会談した際の出来事。外務省の職員が通訳しています。それがめちゃめちゃでロシア首相府のHPに会談の冒頭部分がロシア語で記載されているそうですが、そこに「通訳されたママ」と書かれているそうです。つまり、通訳はこういっていたが意味不明で、原発言がどうなっているのはわかりませんということです。どれだけひどいかは、本を読んでください。著者がそのロシア語を日本語に訳していますが、この翻訳が正しければ(意図的にねじまげていなければ正しいでしょう)もうひどいとしか言えません。私が日本語を英語に訳してもここまでひどくはないでしょう(もっとも同時通訳は能力がないのでできませんから、録音されたのを繰り返し聞いてから翻訳することになりますが)。そして元首相とロシア首相の会談の通訳をするくらいですから、外務省でもトップクラスの語学力を持っているはずです。それがこの程度(著者曰く、中学生レベルの語彙が取得できていない)。
 著者はロシア語の能力だけが極端に落ちていて、ほかは向上しているとは考えられない、ほかの言語の語学力低下も深刻だとしています。外交官に必要なのはセンスと語学力ですが、センスはどうしようもないにせよ、語学力は訓練で改善できます(センスがないとだめですが、さすがにまったく語学のセンスがない人は外交官にはなれないでしょう)。私が英語がろくにわからない、というのとは次元が違う話です。
 著者は政権交代にかなり期待していたようです。まあ、著者の立場ではそうなるでしょうね。また、小沢一郎氏にも比較的同情的なのもそのせいでしょうね。その辺は私の考えと違っていますし、そのほかも方向性は私とは違います。しかし、やはり佐藤氏の著作を読むのは楽しいですし、有益だと思います。
 そうそう、以前、著者句の感想を書いた(一言で言えば、「いまいち」)孫崎享氏について、批判してます。首相官邸に渡していない情報を元首相に渡したそうです。あの著作を読んで同じ外務省の情報畑の人でもだいぶ違うなあと思いましたが、さもありなん、と思いました。ま、著者の意図的な攻撃であれば、私がだまされたことになりますが、著作を読み比べれば、どちらが正しいと思うかといえば、佐藤優氏です。

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