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黒田官兵衛 「天下を狙った軍師」の実像

 中公新書、諏訪勝則著、「黒田官兵衛 「天下を狙った軍師」の実像」の感想です。
 大河ドラマ便乗本が多いのですが、これはまともそうなので読んでみました。結論から言えば、概ね客観的(確かに資料を基にしている)でまともでした。有名なエピソードも信頼できる資料に出てこないものは紹介はしていますが、事実とはしていません。例えば、考高が有岡城に捕らわれた際に、家中は結束してかんばっています(意訳)という報告を信長に送り、信長から感心、がんばれ(意訳)というような返事をもらっていることから、人質だった松寿丸が殺されることはありえないとのように資料を元に否定したりもしています。この辺、先日NHKで放送された歴史秘話ヒストリアと大違いでした。ま、あの番組は、何故か、中津がたくさん出てきたので、中津出身者としては、よしとしますが(笑)。一部に記述に混乱がありますが(朝鮮出兵の陣立ての中で、弟の利高を含めておいて、前年に死亡と注記しておきながら、関ヶ原の戦いの九州戦役の陣立てにも、利高が登場しているのに、説明がないとか)。

 九州戦役、朝鮮討伐で、失敗したのにとがめられなかったという風に書いています。朝鮮討伐の話は有名ですが、九州戦役は、島津を逃がすなといわれたのに逃げられたことを叱責されたことを意味しています。まあ、失敗は失敗ですけれど、致命的な失敗でもないでしょう。
 朝鮮討伐では、よく知られている囲碁をうっていて、待たせて・・・というのは、恐らくそのままのことが起きたのではなく、讒訴されたのだろうとしていますが、失敗は、各武将の統制に失敗したことだとしています。とはいえ、考高は、朝鮮派遣軍司令官に任じられた訳ではありません。権限与えずに統制に失敗もなにもないだろうと思います。また、諸将は、黒田家よりも石高・兵力共に多いところばかりで(一部を除けば)、秀吉が、考高の命令に従えといわない限り、従わないでしょう。統制失敗の責任は秀吉にあると思います。現実無理かもしれませんが、家康を朝鮮派遣軍司令官として送り込めば、少なくとも統制に失敗、というようなことは起きないでしょう(作戦が成功するかどうかは別にして)。まあ、でも、それは出来なかったでしょうね。もし、家康が謀反を起こして、明と組んで、朝鮮派遣軍を掌握して、逆襲してきたら・・とそう思ったのではないかと思います。

 ただ、最後に、軍師ではなく、司令官だったとしているのに同意出来ません。現代でも有能な将軍になるだろうというのは同意出来ますが、結局、黒田考高が、一軍を指揮して概ね自由に行動出来たことはほとんどありません。最後の九州での戦い位でしょう。それまでは一部隊指揮官か幕僚か、交渉役、軍監というような役割がほとんどです。軍司令官、軍団長ではなく、連隊長程度です。良くて師団長か旅団長でしょう。勿論、いずれであっても、上位組織からの命令を受けて行動するのであり、まったく自由に行動できる訳ではありませんが、それぞれの職責に応じて裁量権は与えられています。方面軍や大本営から、軍司令官として、いつつまでにどこどこを占領せよ、という命令は受けるにしても、その過程で配下の部隊をどう動かしてどこから攻めていくかなどは、自分で決められるはずです。しかし、秀吉はもっと細かい指示を出しているように思えます。これでは軍司令官とは言えないでしょう。
 織田家における秀吉や光秀、勝家らのような軍団長、方面軍指揮官というような役割は果たしていません。まあ、信長が成果さえあげていれば、結構、自由にやらせていたように思えるの対し、秀吉は自分で細かく色々口を出している印象はあります。なので、豊臣家においては、そもそも、軍団長なるものは存在しなかったとも言えますね。
 やや乱暴かもしれませんが、私の印象は、信長にとっての藤吉のような存在だったのではないかと思えます。交渉、調略、現場監督、一部隊指揮官などなど。これらは、秀吉になる前の木下藤吉時代の仕事に似ているようにも思えます。違いは、信長は更に取り立てて、羽柴秀吉にした訳ですが、秀吉は、考高にそこまでの権限を与えなかった、という点です。

 なんだかんだいって、信頼できなかったのかもしれませんね。自分がいかなくても、事細かに指示しているように思えるのは、それだけ、目標だけ示してあとは現場指揮官に任せる、ということが秀吉には出来なかったように思えます。

 全体としては、良い本だと思います。歴史秘話ヒストリアを見て、へー、そうなんだ、知らなかった、と思った人には本書を読んでいたら良いと思います。

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