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地域再生の罠

 ちくま新書、久繁哲介著「地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?」の感想です。一言で言えば、著者の分析は正しいけれど、提案している対策には同意出来ない、です。あ、この本は自分で買ったのではなく、相方が仕事絡みで買った本を借りて読みました。

 著者は活性化の成功例と言われているものはほとんどが実際に成功していないと主張しています。イベントの時だけ人通りがあって、その時だけ見れば活性化されたように見えても普段はがらがらというような例が多いことを示しています。箱物ばかりつくって衰退しているとして、土建工学者が地方を衰退させていると厳しく批判しています。
 ただし、この土建工学、土建工学者という言い方はひっかかります。というか、そういう言い方、普通はしないと思いますが・・・。都市計画という言葉は聴きますけれど。また、土建工学者は自身は郊外に住んでうんぬんということを書いたりしていますが、あまりに決め付けが過ぎるような?
 それからどうも著者は車が嫌いなようですね。路面電車を廃止してバスにしたのを強く批判したり、がらがらの商店街が車の抜け道になっているといったり。後者は確かに危ないという面もありますが、ただ、地方では都会と違って公共交通機関が少ないので車がないといきていけないという面もあります。また、コンパクトシティ構想に反対していて郊外での静かな生活が良いと考えているようですが、それには車が不可欠でしょう。人口密度の低い地方で広い範囲にバスにしても公共交通機関網を展開することは難しいですから。
 結局、著者は都会生まれで静かな郊外の生活思考で、自分が住むわけではない地方に活性化して欲しい(そうでないかもしれませんが、上から目線で)と思っているだけなのではないかと思います。「日本農業への正しい絶望法」の中で農業への幻想・ノスタルジーを持っている人間(都会の)が多いという指摘がありましたが、田舎暮らしにも似たような面があると思いますし、著者はまさにそれではないかと思います。
 著者が批判しているコンパクトシティは間違ってはいないでしょう。それが箱物つくりの理由になっているのが問題なだけで。人口が減少した地方都市において中核地域に集中するのは一つの方法だと思います。
 反発したくなる部分はありますが、分析は基本的には正しいと思います。地方で活性化というとまず箱物作って、結局、中身が伴わず、人は集まらず、無駄に終わるというのは良くあるでしょう。宇都宮の109が失敗した原因の分析も正しいと思います。成功例の模倣では失敗するというのも正しいでしょう。成功例といわれているものも過半は実は成功していない(著者の主張では)のであればなおさらです。
 ただ、何故、そうなるのか?それを著者は十分理解していないようにも思います。著者は多分都会生まれの人なのでしょう。地方の人間の気持ちは分かっていない可能性があると思います。私自身は九州の地方都市の出身です。地元ではその地域の中核都市(といっても人口はその当時で5から6万人程度)ですが、都会から見れば田舎の小都市に過ぎません。簡単に言えば、地方は都会になりたいのです。地方は都会にずっと憧れを抱いているのです。だから、若者は都会を目指します。だから、地方から若者が減ります。だから、地方は自分が都会になって若者を引き止めて繁栄したいのです。だから、地方は都会を模倣します。だけど、それはうまくいきません。だから、地方は活性化されず、衰退するのです。
 著者は地域再生プランナーだそうです。ですから、地域再生の方法を提示する立場です。であるが故に現実のほとんどの地域再生が失敗していると指摘することは出来ても、そもそも地域再生は条件に恵まれていない限り、成功しない・出来ないとはいえないのでしょう。でも、現実にはそうです。自分で書いているようにどこでもうまくいく活性化方法なんてありません。うまくいくのはごく一部だけです。特色のある地方ならそれを生かして活性化することは出来るでしょう。より正確に言えば、特色を生かせていなかった場合に、それを生かせれば、でしょう。でも、なんの特色もないありふれた地方であれば、それが衰退しているのを食い止めるのは難しいでしょう。
 著者はスポーツクラブと飲食店を結びつける方法を提示していますが、これがうまくいくのは一部だけでしょう。地方といっても相応の人口がある都市だけです(数十万)。また、サッカーチームなどを中核に・・・という方法も書いていますが、そんなの幻想でしょう。うまくいっているところはどれだけあるでしょう?仮にうまくいくとしても、あちこちサッカーチームだからで成立しますか?無理でしょう。そもそも地域再生プランナーとしてどれだけの実績があるのでしょう?この本を読む限り、提案はあっても、実績は示されていません。無論、実績がないと駄目だといったら提案、提言が出来なくなりますが、曲りなりにも地域再生プランナーというのなら、実績を示さなければ信頼度は下がると思います。

 分析は正しくても、結論が正しくありませんね。地域再生の罠の罠(苦笑)。

 私は専門化ではありませんが、地域再生は少なくとも、地方が都会になりたいという気持ちを捨てない限りありえないでしょうし、再生といっても縮小再生産になるのは仕方ないと思います。極端に言えば、居住人口をあえて減らして、農業地域に徹するというのも一つの方法ではないかと思います。そうすれば、農地が居住地に転売されることもありません(制限する)し、農地の環境を守れるでしょう。ただ、都会への憧れ、流出がある一方で、その土地を離れたくないという人も決して少なくありませんので、実現するのは難しいでしょうけれど。
 日本全国が平等に発展するのは不可能です。投資の選択と集中は今後の日本では必要でしょう。ま、これも考えて見たら、私は出身は地方でも、その後の生活で、都会(の郊外というべき地域ですが)の人間の視点になってきてしまっているのかもしれません。リタイヤしたら田舎に帰りたいという気持ちがありますが、これこそが、老後はのんびりと田舎で過ごしたいということですから、まさに、都会人の考えでしょうか(苦笑)。

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