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想定外には備えられない

 震災から一ヶ月以上経過し、福島第一原発の事故はとうとうレベル7宣言がなされてしまいました。これ自体は驚くことではありません。基準に照らし合わせればそれが妥当なのですから。強いて言えば、レベル7が最高というクラス分けに問題があるかもしれません。チェルノブイリは相対的に見ればクラス8というべきものでしょう。

 原発だけではなく、津波の被害も合わせて、マスコミの論調は、想定外へ備えられていないのはけしからん、という印象を受けます。

 しかし、想定外へ備えることは、絶対出来ません。いや、ありえません。なぜなら、備えるということは、ある状況を「想定」して、それが起きた時に対応出来るようにすることのはずだからです。だから、「想定」していないことへ備えることは出来ません。
 津波の話をするのなら、5mの津波を想定したとすると、通常は(工学的な観点からは)、7から8mの津波がきた場合に問題ないように対策を施していると思います。5mを想定している=5mにしか耐えられないではないはずです。普通はマージンを持ちます。私の専門分野ではもう少し定格に対して余裕を持たせることが望ましいとされており、概ね2倍以上にはします。ただ、これは電気の場合には例えば、10Vであっても、交流成分がのるとルート2倍=約14Vの電圧がかかることがありえますので、それに対してマージンを持たせるためです。定格の倍というのは、実際には想定される電圧の概ね1.5倍程度を意味します(ただし、海外設計の怪しい製品は12V回路に15V耐圧の部品を使うというありえないことをやってくれているものもありましたが・・・)。
 いずれにしても、ある程度はマージンを持たせるとしても、最高で5mの津波を想定していたとしたら、10mに耐えられるようには設計していないでしょう。それはまさに「想定外」だからです。では、何故、そうするのか?それは現実的な時間とコスト(時間=コストと考えることも出来るので、ほぼ、コストといってもいいかもしれませんが、例えば、3ヶ月でなんとか作りたいという場合、コストをかけても物理的に不可能な場合もありますから、時間とコストを分けておきます)の制約があるからです。時間の制限がなく、予算が無尽蔵なら100mの津波に耐えられる対策を施すことも出来るでしょう。しかし、現実にはそうはいきませんから、「想定」して、それに耐えられるだけのものを備えるのです。

 福島第一原発でいえば、津波の想定が5m程度というのは、過去の事例から考えて甘かったということはあるでしょう。今後は、コストがかかるのは仕方ありませんが、より大きな津波を想定した対策が取られることでしょう。それは原発の発電コストを押し上げます。ただ、原発の発電コストが安いというのは電力会社・国の言い分であって、最初から最後までを考えると決して安いとは私は思っていませんし、コストだけで原発を使う訳ではないと思いますから、そこは許容すべきでしょう。

 ですから、批判するのなら、「想定外」に備えていなかったことが悪いのではなく、「想定」が甘かったというべきでしょう。

 ただ、それで国や首相が東電を批判するのは間違っています。東電が国の基準を満たしていなかったのなら、それは東電の問題ですが、国の基準が甘かったのなら、それは少なくとも東電だけの問題ではなく、国の問題でもあります。もちろん、それらは過去、自民党政権時代に行われてことではあります。しかし、だからといって、現在の首相、与党に責任がない訳ではありません。国の責任=現政権の責任です。過去の政権時代の話から責任がないということにはなりません。政権交代が行われて一年半経過しています。その間に何も改善の指示・指導をしていないのなら、それは現政権の責任です。首相が無責任に建設の6年前に起きた津波に耐えられないという想定はけしからん、と批判することは出来ないし、すべきではありません。

 いずれにしても、「安全」であっても、コストを完全に度外視することは出来ません。ですからむやみに高い「想定」を行うことも出来ないのが現実です。100年に一度の災害に備えるのに必要なコストが、30年に一度の災害に備えるのに必要なコストの10倍であったら、実際には30年に一度に備えるにとどまるでしょう。また、ある想定された災害に対する対策をとらなかった場合に予想される被害額に対し、その対策に必要なコストが10倍かかるのであれば、果たしてそこまでの対策をとるべきでしょうか?壊れて復旧させる額が対策に必要な額よりもはるかに少ないとしたら?
 安全に対する考え方としては間違っているという意見もあるかもしれません。人命がかかっているのなら、コストにはかえられないという意見もあるでしょう。でも、現実問題として、全ての場所に対策を施すことはコストの点から行うことは出来ません。予算は限られていますから。限られた予算で出来ないほど高い想定をするということは、それが現実には何も対策を施さないのと同じです。

 少し違う話をします。私の専門分野(PCサーバー)で、防災に近いのは、発煙・発火対策でしょう。製品安全という観点から、障害が発生しても、発煙・発火しないように対策する必要はありますし、安全規格にも規定があります。
 ただし、基本的にここで求められるのは、機器の外部に被害が及ばないようにするということであり、100%絶対に発煙・発火しないようにするということではありません。PCサーバー(普通のPCもほぼ同じですが)の安全対策は概ね以下のようなもの・考え方です。

1.障害が発生しても、外部に被害が及ばないようにする
 つまり、内部が燃えても、隣接している機器や建物などに被害が及ばないようにするということです。これは基本的には金属製の筐体を使い、炎が外に出ないように設計します(ただし、これもある想定・規定では、であって、100%まったく完全に炎がでない、ではありません)。

2.障害が発生しても、速やかに終息させる
 内部で障害が発生し、部品が燃え出したとしても、電気的保護回路が作動したり、ヒューズが切れたり、ブレーカーが飛んだりして、電源供給を断つようにします。そして、内部は難燃材の使用が義務付けられており、電源供給が断たれれば、内部で燃えていたとしても、自動的に火が消える、自己消化性が求められています。難燃材は不燃材とは違います。簡単に言えば、ライターやマッチの炎にさらされれば燃えるものの、ライターやマッチを離すとそれ以上は燃えなくなり、やがて火は消える素材です。

3.障害が発生しても発煙しないようにする
 これは実際には色々な要素があり、2.に類似している部分もありますが、2.は煙が出だした=局所的に燃え出した後に終息させるということで、ここでいうのは、煙が出る前に止める対策です。例えば、電源回路のトランジスタが内部でショートすると過電流が流れて焼損することがありえますが、そのトランジスタに直列にヒューズを設けておけば、そのヒューズがAC電源の入力部にあるヒューズよりもより早い段階で切れて焼損を防ぐことが出来ます。
 また、タルンタルコンデンサという部品は壊れる時にショートモードで壊れます。つまり、壊れると内部がショートします。この部品は電源のプラスとマイナスの間にノイズ取りなどのためにつけられていることが多いので、ショートすると電流が流れて焼損し、発煙します。ですから、私の勤務先では原則使用禁止になっていますが、特性が良いので回路によっては出来たら使いたい部品です。どうしても使用する場合には、コンデンサ自体にヒューズが内蔵されているものを使うようにという社内規定があります。そうすればショートしても内蔵されているヒューズが切れるので発煙に至りません。
 また、完全にショートしてしまえば保護回路(ヒューズやブレーカーもここでは含みます)が作動して終息しますが、ある程度のインピーダンスを持った状態でショートすると流れる電流が保護回路を作動させるまでに至らず、発熱した状態が持続して内部が焼損してしまうこともあります。このような現象に対しては、電流経路を細分化して、個々の保護回路の動作する電流を下げる対策がとられます。例えば、電源装置の過電流保護回路が10Aで作動するとします。電源装置から電源を供給されている部品の末端で、ある箇所に3A流れ続けても保護回路は作動しません。しかし、電源装置の出力を4系統に分けて、それぞれに3Aで作動する保護回路をつければ、末端で3A流れれば保護回路が作動して発煙を防げます。また、パターンを部分的に細くしてそこが先に焼ききれるようにすることもあります。

4.そもそも障害が発生しないようにする
 これが理想ですが、これが現実的には難しいです。発生確率は下げなければなりませんが、零には出来ません。これは回路に使用する部品は十分余裕をもった定格のものを使用したり、個々の回路の負荷を低減したりするというようなことが考えられます。

 安全規格で求められるのは基本的には1と2だけです。3や4は各メーカーの努力目標といって良いでしょう。メーカーの考え方によってどこまで対策を施すかが違います。

 ただ、だからといって安全規格さえ満たせば良い、という訳でもありません。国の基準は満たしていたから東電はまったく問題はない(対応は別にして、「想定」の話)ということではないとは思います。

 これは自慢できると思っていますが、私の勤務先は同業他社よりも念入りに対策を施されていると考えています。しかし、全てが自社開発ではありません(今では、自社開発製品といっても、開発委託製品に近いものが多いです)。OEM供給を受けている製品も多数あります。それらの発煙対策は、正直なところ自社開発と比べると数段落ちることが多いです。
 違いはコストをどう考えるか、につきます。想定される発生頻度と対策に必要なコストを天秤にかけてどう考えるかです。3.の対策はいずれもコスト増加要因になります。高いがより安全な製品と安いが安全性に劣る製品のどちらが良いか・・・・というシンプルな話でもありません。何故なら基本的な安全性は1と2で確保されているからです。3を念入りに施した高い製品と3をほとんど行わない安い製品のどちらを使っていても、1と2がきちんと行われていれば、実際の安全性には差がほとんどありません。乱暴に言えば、前者はまず煙がでなくて、後者は煙がでるかもしれない、という差に過ぎないのです。
 100%発煙しない製品ができたとしても、誰も買ってくれない値段では意味がありません。それでも、日本のお客様は発煙には敏感ですから、勤務先ではコストがかかっても3を実施しています。当然、製品価格は高くなります。そのせいで販売が振るわないということもあるかもしれません(苦笑)。
 いずれにしても、企画で求められているのは最低限度ですから、それ以上、どこまでやるかは、付加価値であると言えます。しかし、消費者が求めないまた求める以上に付加価値をつけても、価格が売れないほど高くなってしまっては意味がありません。

 災害対策も基本的な部分は同じだと考えます。基準を満たすのは当然で、その上、で、コスト(お金だけではなく、時間も含みます)を考えて、どこまでやるかが決まると思います。このどこまでやるかが最終的な「想定」です。でも、いずれにしても、「想定」を超える災害は防げないのです。絶対に。ですから、論ずるべきは、どこまでを「想定」するか、です。

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