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零式艦上戦闘機

 読書感想文です。前に良書であると紹介された新潮選書の清水政彦著、「零式艦上戦闘機」を今頃ではありますが、読了しました。一言で言えば、「素晴らしい」です。帯に「新説搭載 俗論撃墜」と書かれていますが、まさにその通りです。良書であっても大概、部分的には「それはちょっと違うのではないか?」と思える部分が少しはあるのですが、この本にはそれがありません。むしろ、鵜呑みにしないようにしないと、批判的に読まないと、著者の事実誤認にもとづいているかもしれないと考えないとと、そのまま信じないように自分に言い聞かせる必要があった位です。
 勿論、全てが「新説」ではなく、既に指摘されている点も多く含まれてはいます。しかし、過去、少なくとも私は他でそのような主張を読んだことがない主張が多いです。そしてそれらは決して突飛な主張ではなく、ある意味では当たり前のことです。ただ、従来、それに気が付いていなかっただけ。

 私は最大のポイントは「20mm機銃」にあると理解しました。20mm機銃を装備したことが悪いという訳では決してありません。著者はそれ自体は評価しています。搭乗員の証言を元に20mm機銃は直進性が悪く当たらないということが定説になっていたと思いますが、著者はそれは勘違いで、7.7mmや米軍の12.7mmと比較して、顕著に悪い訳ではなく、見え方の問題であるとしています。そしてこれは極めて重大な問題を引き起こしています。
 図がないとわかりにくいので、本で欲しいですが、著者の主張は機首を引き起こしながら射撃を行った場合、7.7mmは照準機の中の敵機に対して直進しているように見えるが、20mmの弾道は下へ曲がって落ちているように見える、しかし、実際にはこれは機首上げのためにそう見えるのであって、20mmの弾道そのものはほぼ直進している、7.7mmは直進しているように見えるが搭乗員から見えにくくなったところで実際には同様に下へ曲がっていく(実際にはこれも直進状態)。この差は機首に装備されているか、主翼に装備されているかの違いと20mmは最後まではっきり見えやすいの対して7.7mmは距離が離れると見えにくくなるあらであるとしています。
 言われてみればその通りです。両者は200mm先で弾道が交差するように調整されており、その位で極端に弾道が下落することは本来はありません。曲がって見えるのは、搭乗員の目から見えた相対的な弾道に過ぎないというのはその通りだと思います。
 そしてこれが生み出した重大な問題は・・・・極めて衝撃的なことですが、日本の搭乗員の射撃が下手、であるということです。7.7mmは目標に命中しているように見えて、20mmは下落しているように見えるとすると、照準は正しくて弾道特性の問題で20mmは当たっていないように思えてしまいます。しかし、実際には7.7mmも命中していませんし、照準は正しくありません。20mmの下落して見える弾道に合わせて照準しなければならないのです。これに気が付かないと、正しい射撃が出来ません。結果、操縦技量は高くても射撃が下手な搭乗員が出来上がります。著者は当時正しい教育がされていなかったようだとしています。それについては本当のところどうかはわかりません。わかりませんが、仮にそうだとしたら恐ろしい話です。勿論、エース級はそれを正しく理解した上で照準していたのでしょう。

 では、米軍はどうか?著者は操縦は下手でも射撃はそこそこ上手なのが多かったのではないかとしています。上手というよりも、期待命中弾数は米軍が多かったであろうというのが正しいでしょうか?つまり、12.7mmは20mmと違って携行弾数が多いので、射撃しながら修正出来ます。そうすれば最初の照準がずれていても、弾道に合わせていけば当たります。
 それに対して零戦はどうか?著者は直接書いていませんが(と思うけど)、20mmは弾数が少ないので、20mmで射撃しながら修正、とはいかないでしょう。であれば、まずは7.7mmで射撃しながら修正を行うでしょう。そして、7.7mmが命中しているのなら、その時20mmを撃てば命中するはずです・・・はずですが、それは本当に7.7mmが命中しているのなら、です。前述の問題で実は照準は正しくないのに見た目命中しているように見えた時に20mmをいくら撃っても当たりません。そして弾道は下落して見えます。7.7mmが命中しているはずの敵機が平気なのは威力が低いからだと考えてしまえば、実際には命中していなくても気が付きません。

 私は、いや、実際にはそうではなかった、ちゃんと海軍はそのことをわかっていて教育していた。ただ、それが不徹底だった、十分な時間が取れなくなって、そういう未熟な搭乗員が増えてしまったのだ、そういうことであったと信じたいです・・・祈りたいです・・・。

 機銃についていえば、著者はもっと早く7.7mmを13mmに出来なかったのかとも述べています。もし、最初から機首の機銃が13mmであれば、もっと違った結果になっていたかもしれません。

 もう一つは裏表紙に書かれている「零戦と米軍機の勝敗を分けたのは、性能(ハード)ではなく運用(ソフト)だった!」という指摘です。これは部分的には類似の指摘はあったかもしれません。しかし、実例を出しつつ明確にまとめて指摘したのを読んだのは私はこれが最初です。
 搭乗員はここでは「性能」側に含められています。勿論、最低限度の技量は必要ですが、熟練パイロットがいれば勝てる、いないと負けるという訳ではないという主張をされています。重要なのは早期警戒を含む防空体制や支援機能(基地機能)の有無だとしています。それらが整っていたラバウルや本土では、健闘しており、それが無かった孤立した島や南方では惨敗しているとしています。戦争末期ですら、本土での迎撃戦闘では相応に健闘している、と主張しています。ついでに言えば、紫電改の三四三空とそれ以外で戦果に大きな違いはないともしています。
 搭乗員の練度については米軍はずっとそれほど高かった訳ではなく、戦争初期に熟練パイロットを失った後(1942年後半)は技量の低いパイロット中心に戦っていたとしています。それでも、運用でカバーして戦い抜いたというのが主張です。
 良くある話ですが、米軍は操縦技術そこそこの技量のパイロットを大量に養成(ただし、射撃だけはちゃんと教育した)し、仕組みをちゃんと整えて、それで戦い抜いた。日本は個人芸に頼る結果になり、仕組みが整えられず、運用が全般的に下手だった、ということです。

 序盤の勝利は熟練パイロットが多かったせいではなく、状況(幸運も含む)が日本側に有利であったせいだとしています。また、ラバウルがあれだけの激しい空襲を受け続けても耐え続けた(この本でも述べられていますが、最終的にはラバウル自体が屈服したのではなく、トラックが壊滅したため、ラバウルに存在価値が無くなっただけ)のは、ラバウルでは運用体制がとどのっていたからです。決して少数の熟練パイロットが奮闘したからではありません。架空戦記ネタ的に言うと、運用がちゃんとしていればもっと戦えた、と言えます。

 他にも機体の強度や降下制限速度自体は低くなかったとか色々ありますが、個人的には、我が意を得たりと思ったのは、米軍でも対空砲火はたいして当たらないということです。日本軍の対空砲火はほとんど当たらないが、米軍のは凄くて、大きな被害を出したと言われることが多いです。特に南太平洋海戦ではサウスダコタなどの対空砲火により大損害を被ったと言われ、マリアナ沖海戦でもVT信管によりばたばた落とされたと言われることが多いように思います。しかし、従来から私は防空の基本は戦闘機であり、対空砲火は補充的なものであり、米軍ですらそれほど実際に撃墜している訳ではないと主張しています。著者も同様に主張をしています。
 サウスダコタは、恐らく参加した搭乗員に強い印象を残し、凄かったと証言していること、航空機の被害が大きかったことから、対空砲火にやられたというイメージが出来上がったのでしょう。
 また、結果的には対空砲火の効果もあるのでしょうが、遭難と書かれていますが、要するに撃墜されなかったものの、母艦にたどり着けずに失われた機体も相当数あるのではないかともしています。米軍側はわりあいそういう数字が出てきますので知られていますが、日本側は未帰還=被撃墜と考えられているように思います。

 ミッドウェーでの搭乗員の被害はそれほどではなく、また、ガダルカナルの消耗戦も全体でみればそう大きかった訳ではないとしています。そして、空母については南太平洋海戦での被害が多く、海軍航空隊全体でいえば、1943年に大消耗したとしています。

 つまり、ミッドウェーはターニングポイントでもないし、ガダルカナル攻防戦は戦争の結果を決めるほどのものでもない、ということです。局地的な激戦に過ぎなかったと言えます。確かにガダルカナル攻防戦で消耗してしまったのなら、その後、ラバウルが持ちこたえたのは理解出来ませんね。

 興味深いのはガダルカナル上空での戦いで、大損害を受けた時は、最初の空中戦が発生せず、地上目標に対して銃撃をくわえていたところをやられたり、深追いして奇襲されたり、など戦術的ミスが生じた場合に多いのではないかともしています(当たり前ですが)。それらも含めてトータルで零戦とF4Fの損害比率は劣勢、贔屓目にみてほぼ同じであったとしています。ガダルカナルの戦いは、装備体制とも劣る米軍が巧みな運用で粘り強く戦い続けた結果、勝ち抜いた、というのが著者の評価でしょう。言い換えるとやり方次第では勝てたとも言えます。

 細かい部分を書き出せば切りがないのでこれ位でやめておきますが、とにかく読んで見て下さい。

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