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V35 GT-R

 出来映えは素晴らしいし、今の日産でよくぞこれが出来たと思います。ただ、欲しいかというと欲しくはありません。作り手が思いを込めて作ったのも分かりますが、その思いが私のそれとは食い違っているからです。それは車自体にも反映されており、良い車だと思いますが、私の好みとは違います。作り手が込めた思い通りに出来上がっているとも言えるでしょう。

 似ている(ある意味、その逆)なのがロードスター。流用部分があるとはいえ、ほぼ専用プラットフォームを開発。マツダはよくぞこの車を作り続けていると思います。これも作り手が思いを込めて作っています。そして、GT-Rと違って、その思いは私のそれとほぼ同じです。しかし、残念ながら期待して実際に乗ると思いとは裏腹に実際に出来上がったものが良くありません。マイナーチェンジ後の現行ロードスターには試乗する機会がまだ得られていないので評価出来ませんが、それまでのロードスターは所有したNA8Cを含めていずれくもそうでした。

 作り手の思い、実際の車の出来、そのどちらもが私の好みと合致している車はそう多くありません。作り手の思いはある意味どうでもよくて、車が私の好みにあっていればそれでよいといえばそうなんですが。

 これまで所有した車の中で合致していたと言えるのは、ホンダ・ビートとロータス・エリーゼの二台だけです。AWは作り手の思いがはっきりしません。色々な制約(トヨタという会社の内部的なもの、法規的なもの、マーケットの要求などなど)の中でベストを尽くしたと思えますし、思いたいのですが、しかし、そこはやはりトヨタ。ホンダやロータスほどは作り手の思いが感じられません。でも、AWはそれでいいんです。何がどうあれ、出来上がった車は世界一なんですから・・・私にとっては。

 V35に戻ります。ベストモータリングの6月号と7月号でV35 GT-Rを主に取り上げています。この中で水野氏の発言に注目すべき点が二つありました。

 一つはV35が重いという批判に対する反論です。停止状態での重量や重量配分をうだうだいうのはナンセンスで、動的状態で考えるべきだというものです。それ自体はまったく同感です。でるが故に私はMRが一番優れていると考えているのですから。

 静的状態で911(997)とエリーゼ系やヨーロッパSの前後重量配分はほぼ等しく、911の方が数字上、上回る場合もあります。また、重心もリアの低い位置にエンジンがある911に対し、エリーゼ系はトヨタエンジンになりやや重心が上昇しています。MRのエリーゼは本当にRRの911よりも劣るのか?そんなことはありません。静的状態ではほぼ同じでもホイールベースの内側に重量物があるMRとリアのオーバーハングにあるRRでは違いは当然あります。
 加速時には荷重は後方へ移動します。2WDで比較するとFFは駆動輪への荷重が減少し、FR、MRやRRは増加します。FRよりもMR、MRよりもRRが少なくとも加速については有利です。
 減速時には荷重は前方へ移動します。フロントエンジン車はリア荷重が減りますので、フロントブレーキだけでとまっている・・・・は言い過ぎでもフロント側の負担が大きくなります。MRやRRでは相対的にリア側が重いのでリア側のタイヤも十分荷重が残ります。そして、MRとRRを比較すると減速時にMRはほぼ前後が等しくなるのに対し、RRはまだリアが重いはずです。

 加減を見ればこのようにMRとRRはFFやFRよりも優れており、RRは加速時、MRは減速時に優れていることが分かります。では、旋回はどうか?今度はヨー慣性モーメントが効いてきます。重心は低くても重心点から遠い場所にエンジンという重量物があるRRは当然、モーメントが大きくなります。MRは重心点に近いので少なくて済みます。

 もう分かるようにMRは加速時だけはRRに劣りますが、それ以外では全てにおいてRR含む他の駆動形式に勝っています。これは静的な重量配分の是非では分かりません。それはAWとNA8Cを実際に乗り比べて、私自身が体験しています。

 もちろん、全てについてMRが一番良いといっている訳ではありません。実用性やら扱いやすさというような部分ではMRに問題もあります。ただ、GT-Rが目指す世界でなら、MRが一番良いでしょう。

 ですから、動的な状態で考えるべきだというのは正しいのですが、ただ、問題は、V35が重いことによって、簡単に言えば、性能がよくなっていると主張している点です。500kg程度の車重のF1のコーナリング性能が良いのはダウンフォースにより非常に強い力で押さえつけているからであるということを例にだしています。これは確かにその通りです。だから、重たいということはタイヤを地面に押さえつける力が大きいのでコーナリング性能が良くなるという理屈です。
 これは詭弁です。詭弁が言い過ぎならある一面だけをとらえている言っているに過ぎないと言いましょう。旋回中の車のタイヤを地面に押さえつける力だけを見れば他の条件が同じなら車が重たい方が良いでしょう。そして、静止中ならそれは確かにその通りです。しかし、水野氏が主張するように動的状態で考えなければ意味はありません。旋回中の車の質量は下向きの力だけを生む訳ではありません。車は旋回しているのですから、慣性モーメントが生じます。外側へひっぱられる力と下向きに押さえつける力、この両方に質量が影響します。だから、重たければ、外向にひっぱられる力も強くなるので、軽い車よりもコーナリング性能が良くなる、という訳ではありません。
 そもそも、重い方が良いのなら、何故、SpecVは標準車よりも軽いのでしょう?何故レースでは最低重量の制限はあっても最高重量の制限はないのでしょう?何故、JGTCなどではウェイトハンデが設けられているのでしょう?当然、それらは車は軽い方が良いからに他なりません。軽い方が良いのは不変の真理です。

 もちろん、GT-Rが1.7t台の車重であれだけの性能を発揮しているのは、単なる重量配分や重さだけではなく、日産の持てる技術を注ぎ込んだ結果です。ですから、重いから駄目という訳ではないのだといいたいのは分かります。軽くても(特に相対的にある程度軽いだけの車)重いGT-Rよりも性能が劣る車はいくらでもあるというのも分かります。水野氏の真意もGT-Rは重いだから駄目なのではない、動的な重さ・重量配分を考慮してつくれば、重くても性能が良い車は出来る、といいたいのかもしれません。

 が、なんにしても開発責任者がメディアの前で説明するのなら誤解を招くような表現はすべきではありませんし、それに対して批判されてもそれは水野氏の責任でしょう。

 そしてこれはR33 GT-Rの時から同じことをずっと思っていますが、それだけ重い車を速く走らせられるのなら,軽い車にその技術を注ぎ込めばもっと速い・良い車が出来るのに、です。

 R32 GT-Rはレースのレギュレーションに合わせて最適と思えるものを作ったので違いますが、R33以降は、そうではありません。商品としてGT-Rが必要で、それであるが故にスカイラインベース、また経済的な理由からもまったく違うプラットフォームを起こすことは出来ずにやむなくやってきたといわざるをえません。

 もし、日産がGT-Rで培った技術力でNSXのような車を開発していたらどうだったでしょう?MID4が量産していたら、というのとはちょっと意味合いが違って、R32 GT-Rの次に、GT-Rの名で、NSXのように全てを新規に開発していたらどんな素晴らしい車が出来たのであろうかということです。MRではなく、FRでもかまいません。

 が、結局、日産に出来たのは、それから10年以上後に、なんだかんだいいつつ、スカイラインベース(FMパッケージというべきか)のV35 GT-Rです。これはこれで制約の元で素晴らしい車を作り上げたとは思います。しかし、であるが故にまた思うのです。一から新規に自由に開発していたらどんな車になったであろうか、と。頑張ってはいますが、既存のプラットフォームベースでは、やはりどうしても重くなってしまいます・・・。

 もう一つの話。ベストモータリングでは、GT-Rのニュルでのタイムアタックに密着取材をこれまでもしていました。今回、欧州メディアを招いての09モデルの公開アタックの後、10モデル開発のためのタイムアタックが再度行われており、その様子を見ることが出来ます。
 そこでは実に驚くべきことが行われていました。走行して、セッティングをやり直して、再度走行。これは開発ではあたりまえのことです。が、驚いたのは何を変更していたか、です。そこでは、GT-Rの部品(サスペンション回りの)の量産品の中で、公差の範囲内での色々な違う部品の組み合わせからベストなセッティングを見つけようとしていたのです。そして、その結果として7分26秒という記録を樹立しています。
 確かにこれは量産型GT-Rでしょう。特別な部品を使った訳ではありません。部品やその構造は普通に売っているGT-Rそのものです。しかし、ディーラーで買ったままのGT-Rで同じ走りは決して出来ません。宝くじに当たる位の確率で近い走りが出来るかもしれませんが。
 これは改造が制限されているN1やグループNというレースの手法でしょう。レギュレーション上、量産車と同じでなければならないと定められた部品について、ばらつきの範囲内でベストなものを探してつける。ワークスの手法です。また、所謂、広報車チューンといっても良いです。つまり、これは合法的に特別な車を仕立てて、タイムアタックしましたよと公言しているのです。
 これを驚かないでどうします。過去のタイムアタックも同様のセッティングの結果であった可能性があります・・・というかほぼ間違い無いでしょう。公開アタックの時に見つけだしたセッティングは路面状況の変化により意味がなくなったうんぬんということを言っていましたから(ただし、これは水野氏の口ではなく、ベストモータリングのナレーション)。

 もちろん、問題はこのセッティングを施した場合とそうでない場合のタイム差がどれだけあるかです。数秒なら問題はないでしょう。数十秒ならそれならポルシェが走らせたGT-Rが遅かった理由も分かります。それは普通に買った車ですから。そうであるのなら、それは一般のユーザーに対して不誠実である行いだと思います。

 10モデルの開発のためなら、試作の部品を色々試すべきでしょう。だって、公差の範囲内で特性の違う部品ということは、量産車では全て同じものと見なされる部品ですから、意味がありません。量産車ではばらつきの範囲内に収まる中でいくらベストを追及しても、それは公差を変更しなければ反映されません。

 水野氏からするとあたりまえのことをしているだけでしょう。レース屋の彼からすればレギュレーションの範囲内での勝利を追及しているだけです。でも、GT-Rはレーシングカーではなく、ロードカーです。やるのなら、公差の範囲内でその平均値の部品をより出し、それでどの位の性能になるかを見るべきでしょう。その上で、部品を変更して性能を向上させるべきです。

 確かに開発として無意味とまでは言えません。方向性は分かりますから、それを量産車へ反映させることは出来ます。見つけたセッティングが公差の平均値になるように部品を変更すれば良いのですから。でも・・・・・やはりそれはロードカーの手法としては間違っているように思います。

 実際には日産は私が主張したようにテストで見つけたセッティングが平均値になるように仕様を変更しているのかもしれません。しかし、それでも、やはり、水野氏のやり方は何かが違うと思います。取材方法に問題がある可能性もありますが。マスコミが一部分だけ報道し、事実と異なったものを受けてへ流すということは何度でもいつでも起きていることですから・・・。

 ただ、標準車にこだわっているようですが、ニュルのタイムアタックはSpecVに任せて良いのではないかと思います。GT-Rを買う人の誰もがニュルを走る訳ではないのですから。ニュルだけに必要なものを持たせるために他を犠牲にする必要は標準車にはない、と思います。

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